「心地よい」は体感から(宿谷昌則)
- 2008/08/08(Fri) -
宿谷 昌則 (しゅくや まさのり) 第2回 宿谷 昌則 (しゅくや まさのり) 「心地よい」は体感から
専門は建築環境学。人にとって最も身近な環境-建築環境-空間における光や熱の振る舞いと人の健康・快適性にかんする研究・教育と、身近な自然に存在する 様々なポテンシャルを建築環境の調整に活かす方法にかんする研究・教育に携わっている。これらの基礎となるエクセルギー研究は国際的に高く評価されてい る。1953年東京生まれ。現在、武蔵工業大学環境情報学部・同大学院環境情報学研究科教授。

インタビューの第2回は、武蔵工業大学教授 宿谷昌則さんです。
宿谷昌則さんは、日射や風など自然のポテンシャルを活用して、健康で快適な建築環境を創り出す方法について 様々な
角度から研究されています。また、大学以外にも、小中学校や地域での建築環境教育を続けていらっしゃいます。


人間本来の快適性と「冷房」
 
――省エネルギーのため、最近の健康志向などの中で「なるべくエアコンに頼らない生活を送ろう」という傾向が強まっています。先生はいかがお考えですか?

宿谷 昌則 (しゅくや まさのり) 宿谷  夏場にエアコンの冷房に頼り切るようになってしまったのはこの20〜25年の話です。現代人と同じ骨格を持つ人は、大体5万年前に現れたと言われていま す。骨格が同じということは、感覚器官や神経系、脳の大きさなどが基本的に同じということです。明るい・暗い・暑い・寒いなどと感じる基本は、私たちと変 わらないはずです。今問われているのは、このような時間スケールでもう一度考え直してみる・・・・ということではないでしょうか。

――それはからだの仕組みまで立ち戻って考えるということでしょうか?

宿谷 例えば、人のからだでは、暑い環境では汗が出てきますが、これは、私たちのからだが極めて優秀な水冷式の冷房装 置を備えているとみることができます。「暑い」・「蒸す」などの言葉は意識があっての表現ですが、意識より下のレベルで、汗を出して体温が上がらないよう にするという表現があるわけです。こういうことを認識した上で、冷房・暖房はどうあるべきかを考えなければいけない。「冷房のし過ぎをやめましょう」など のキャンペーンが人々に共感を与えるとすれば、その背景にはこのような事柄があるのだろうと思います。

宿谷 昌則 (しゅくや まさのり) ――現代人は機械に頼りすぎる生活をしている、人間の快適性に対する本来の感覚が鈍っているということですか?

宿谷 そうです。本来あるべき感性に整合する技術を見出すことが重要で、それはいわゆる省エネルギーと相反するもので はない。エネルギーを使う量を減らし、しかも、効率がよいと、本当の快適さが現われてくる・・・というのであれば、こんなにいい話はないですね。これまで のようなアクティブ型の技術(機械・電気技術)のさらなる進歩だけで問題解決するという見方では、限界に達していると思います。



日本の民家が培ってきた室内環境
 

――日本はパッシブ(自然の力)な面を見直すことができますか?

宿谷 はい。日本の民家は、長い時間をかけて培われてきたもので、その室内環境や暮らし方を、いまいちど現代の視点か ら掘り起こして、これからの社会に活かすべきと思います。日本らしさに誇りを持って、それをもっと発信したらよいとも思います。省エネルギーで、しかも健 康的・快適である室内環境や暮らしのあり方の発信です。

――それは昔の住まいや暮らしに戻れ、ではないのですよね。

宿谷 全然違います。昔に戻るというのは、建物の断熱性が悪く、空気の温度をかなり上げないと暖かくならない室内環境 にするということでしょう。断熱性はもっともっと向上すべきです。夏は日をよける、風を通すことも重要です。遮熱性向上と通気性向上ですね。通風は断熱・ 遮熱があって、はじめて効果的になります。




「断熱」が快適性と健康性の基本を作る
 
宿谷 昌則 (しゅくや まさのり) ――パッシブエネルギーの活用は供給側もあまり関心がなかったような気がしますが、なぜでしょうか?

宿谷 日本の住宅の断熱性・気密性は非常に悪かったから、断熱性能向上という面が特に取り上げられました。結果が見えやすいということがあって、冷暖房負荷を減らして、光熱費を減らすといった意味合いでしか捉えられてこなかったところに大きな問題があると思います。

――それは快適性を無視していたということですか?

宿谷 無視というか、建物の断熱が快適性や健康性の基本を作るという発想を持たない人が多いですね。すぐ光熱費の話に行っちゃう。

――でも、それだと行き詰まりますね。









宿谷 昌則 (しゅくや まさのり) 宿谷  そう、お金の額でカウントすると「何だ、そんなもんか。だったら断熱をしっかりやらなくても」という話になってしまう。それは極めて大きな判断の誤まりで す。断熱がきちんとなされた住宅に冬はいると「心地いいな」と思えます。この「心地よさ」のもとになる感覚は、まさに体で感じないとだめですね。言葉だけ では表現しきれないように思います。



「体感」を伴った環境教育
 

宿谷  僕が研究・教育の対象としてきた建築環境の質は、「体感」が大切だと思っています。数字はもちろん大切ですが、必ず体感とつながるところで考えないとだめ ですし、実はそこに面白さがある。体感は誰でももてるのですから、そこから出発して、自分で学んでいく。そうして学ぶことが、わくわく感につながっていく ことがわかります。

大切なことは体感に基づく理解――これまでの学校教育の中で、「体感」する機会はほとんどありませんでした。

宿谷 建築環境を環境教育という側面から改めて見てみると、私たちが、如何にお仕着せの情報をうのみにしてきたかを思 い知らされます。理科嫌いが多い…とよく言いますが、建築環境のような身近なテーマから学ぶようにしていけば、つまらないはずはない。そう思っています。 その中で、住まいのことも、知らず知らずのうちに学んでいくことができる。その子たちが大人になったら、家の買い方が変わる・・・・そういう筋道があって よいはずです。

――そうすれば、ニーズに合わせて供給側も変化し、市場が動きますね。

宿谷 僕はそういうシナリオがとても大事だと思っています。10年〜20年という時間スケールで考えて行きたいと思うのです。




「ゆったり流れる時間」を生む建築
 
――先生がお考えになる、環境も考えた豊かな暮らしというのはどういう暮らしですか?

デンマークで暮らしたアパート宿谷 建築や環境というと、空間の話が出ます。しかし、空間だけでなく、時間をもう少し自分のものにしていく・・・・・時間のデザインができることが豊かさではないかと思います。
僕はこの2月から3月にかけて、1ヶ月間をデンマークでアパート暮らしをしました。外は寒いのですが、暖房は極めて快適だった。日本では寒いと外に出るの が嫌になりますが、デンマークではそう思ったことがなかった。どうしてなのか・・・・と考えたのですが、それは「わが家はあったかい」ことが保証されてい たからだと思いました。すごく暖房をしている・・・・というわけではないのに心地よい。断熱や蓄熱がきちんとされているのです。豊かさって、こういうこと かもしれないなと思いました。このような基本となる環境をきちんと作ることが大切だと体感を通じて思い知らされた・・・というわけです。ゆったりと流れる 時間と豊かな暮らしが、そのような中で現実的になってくるような気がします。

(インタビュアー (財)省エネルギーセンター 企画広報部長 山川文子)
http://www.eccj.or.jp/lohouse08/interview/index_02.html





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