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地方自治体から始めるエネルギーのグリーン購入の可能性
- 2008/03/19(Wed) -
地方自治体から始めるエネルギーのグリーン購入の可能性

NPO法人環境エネルギー政策研究所所長 飯田 哲也 

<概要>

世界全体の地球温暖化に対する社会の動きがここ1年はっきりと変わってきた。ひとつはアカデミー賞を受賞したアル・ゴア主演の『不都合な真実』によるインパクトがある。これはアメリカの空気すらかなり変えていると聞いている。また、昨年の10月に出たイギリスのニコラス・スターン卿が率いる『スターン・レビュー』がある。これは、このまま放っておいた時の地球全体の経済に与えるリスクよりも予防的に動くコストの方がはるかに安い、という経済報告だ。そして、今年の2月に出たIPCCの第4次報告だ。地球温暖化は人類が放出する二酸化炭素が原因であるとほぼ断定し、しかもその影響が加速しつつあるという。これらがこの1年間立て続けに公表され、国際政治的にもはっきりと変わってきたのではないかと思う。

その対策の中で、自然エネルギーは飛躍的な成長が見込まれている。今年の 2 月に UNEP と協同して「持続可能なエネルギーファイナンス」の日本初のワークショップを主催した。その中で UNEP SEFI の事務局長の報告によると、自然エネルギーへの投資が一昨年は 5 兆 5 千億円、昨年は 8 兆円、今年は 10 兆円を越えるのではないかという勢いで、自然エネルギーが本流化しつつあるという。こういった流れを、経済的にも環境的にも社会的にも win-win-win となるような構造を日本の中でも作っていく必要がある。地球温暖化防止と地域のエネルギー政策において、やはり地方自治体、あるいは地域社会が率先して動くべきだということが本日の第一の主旨だ。

なぜ地域社会が率先して動くべきかというと、第一はもちろん環境保全だ。地球温暖化防止やクリーンな空気、排気ガス、水といったローカルな環境保全とグローバルな環境保全の直接的な効果がある。二点目は、リーダーシップやイノベーターとしての役割がある。日本においても世界においても変化は周縁から起きるという経験がある。三点目は、知識社会を作るということ。単に補助金を使って実証設備を作ってしまえばそれで終わってしまうが、新しい制度、仕組み、仕掛けを様々なパートナーシップと協働しながら作り上げていくプロセスが社会に新しいダイナミズムを与えてくれるだろう。四点目は、オープンソサエティ、特にエネルギー自治などをキーワードに、開かれた地域自立社会をつくるということ。最後に生活者主権の考え方がある。日本のエネルギー政策は産業に目線が寄りがちだが、これを生活者の視点でもう一回組み立てる必要がある。

政策イノベーションの源流とは何か。世界全体の風力発電が昨年末で 7400 万 kw 、 20% 成長した。筆頭に立つのはドイツで 2062 万k kw という状況。 2 番目にはスペイン、僅差でアメリカ、そしてインドである。ところが 1990 年以前の世界で風力発電があるのはデンマークとカルフォルニアしかなかった。デンマークは 1984 年に風力発電協同組合と電力会社と国が 10 年間にわたる固定価格の三者協定を結び、電気料金の 85% で電気を買い取るというのが源流にある。この仕組みが 1990 年にドイツに輸出され、わずか 1 ページの法律だが 1990 年 12 月に今日の源流となる固定価格制( Feed in Tariff )と言われる、電気料金の 90% で全ての自然エネルギーの買い取りを義務付けるという法律に様変わりした。そこからドイツの風力の爆発的な普及が始まり、全く同じ仕組みを 1992 年にデンマークが逆輸入した。デンマークは政権の変わる 2001 年まで順調に伸び、今年の 1 月にはデンマークの 40% は風力発電で賄われた。 1994 年にドイツ型の仕組みを輸入したスペインが今世界第二位の風車大国となっている。

もう一つの源流として、 1995 年にドイツのアーヘンという町にアーヘンモデルが導入されたことが挙げられる。これは太陽光発電の普及のために、電気料金に 1 %の地方税を乗せてこれを太陽光発電の買い取りの上乗せに使ったものだ。これが国の制度として 2000 年に電気料金の 90% という一律の価格では無く、自然エネルギーごとに決めた値段で買い取る新しい自然エネルギー法( EEG )への改正につながり、そこからドイツの太陽光の普及が始まった。さらに再生可能エネルギー国際会議が開かれた 2004 年にもう一段値上げをしてから、爆発的に普及した。昨年 90 万kW位ドイツは太陽光発電を導入したのではないかと言われている(後日 115 万 kW と判明)。毎年 5% 買い取り価格を下げるということが織り込んであり順繰りに下がっていくが、それでも普及効果があった。ドイツの爆発的な普及に至るまでは、電力会社の余剰電力購入メニューと政府の補助金によって日本が太陽光の市場を下支えしていたが、ドイツの背景には地方自治体の率先がある。

スウェーデンが昨年 6 月に、 2020 年に向けた「脱石油戦略」を出した。地球温暖化対策とピークオイル問題に対して、国内の石油消費量を 2020 年までに撤廃まではいかないが、少なくとも電気と熱を生み出す分野は 0 にし、輸送と産業分野は約半減すると、首相に諮問された。昨年 9 月に総選挙で政権が変わったが、新政権もこれを踏襲すると表明している。これも 1996 年にスウェーデン南部ベクショーという地方都市がローカルアジェンダ 21 の結果、「脱化石燃料」を宣言したことが源流にある。特に地域熱供給の脱化石燃料化、バイオ燃料化を進めた。すぐさま「チャレンジングコミュニティ」として 5 つの自治体に水平に広がり、最終的には国の政策に広がったという経緯がある。

デンマークの三者合意がドイツの固定価格に繋がり、風力発電の進化がベースとなってアーヘンモデルが生まれた。そして 2000 年に社民党と緑の党が政権に入ることによって今日のドイツの自然エネルギー法( EEG )に繋がった。ドイツでは自然エネルギー全体で 2 兆 5000 億円のマーケットとなり、 17 万人の雇用が生まれている。 CO2 は 8000 万トンがこれまでに削減できたというすさまじい効果を生んでいる。

これをまとめると、ひとつに変革は周縁の小さな試みから始まるということ。国の中央で起きるのはむしろ変革ではなくて政治的な妥協である。周縁の中での優れた試みが水平に広がっていくということが、これからの地方自治体の戦略に非常に重要だ。過去の環境政策も、東京都など様々な地方自治体の上乗せ・横だし条例が進化させてきたことをふまえておく必要がある。また、自然エネルギー政策というのは必ずしも「命令」や「排出規制」、もしくは単に「補助金」をつけるという話ではない。むしろ政策によって社会と市場の「仕組み」と「土俵」を整えるという目線が必要だ。

そのひとつの事例として、 2020 年に再生可能エネルギーを 20% 利用するという東京都の提言がある。これは 2020 年に CO2 を 25% 削減するという目標の一つのベースとなっており、 3 つの柱を持つ。第一に、需要プル型の政策展開である。出口戦略として「量」と、その量を引き受けることができる「質」の整ったマーケットを作る。これがないと世界で飛躍的に伸びているような自然エネルギー市場はなかなか実現できない。自然エネルギーで言えば世界 43 カ国、アメリカとカナダでは 21 の州が 2015 年もしくは 2020 年の再生可能エネルギー導入目標を立てている。日本も目標値はあるが非常に小さく 2014 年に 1.63% に過ぎない。また「質」の中にも哲学が必要だ。日本の場合エネルギー政策はどうしても産業側に寄りがちで、従来から規制緩和や市場原理主義ばかりが強調されてきた。しかし官から民の「民」には本来 2 つの意味がある。「民間企業」と「市民 ( パブリック ) 」だ。地方自治体、地域社会で作っていくエネルギー政策の柱と言うのはパブリックなエネルギー政策が絶対に必要な視点ではないか。

日本が唯一成功した産業政策はファクシミリといわれる。意図せずして電話回線が全く規制を受けずにそのままファクシミリに開放された。官庁や大企業が一括大量購入し、日本のファクシミリ企業が非常に強くなるという初期需要を作った。自然エネルギーもやはり初期需要を作ることよって、その産業基盤をきちんと作るべきだ。パイプに入り口から補助金で押し込むのではなく出口から吸い取ってやり、マーケットの土俵を整えることが必要である。これを市場プル、私はもう一段広げてソーシャル・プルと呼んでいる。風力発電で言えば技術開発も必要だが、系統連系するときの手続きをスムーズにするとか、あるいは洋上風力発電を行う際に出てくる漁業権の問題にきちんと道筋をつけてやる。土地がリスクとなっている部分を社会的に解きほぐしてあげることによって、出口が非常にスムーズになる。とりわけ価格を保障することは非常に重要だ。日本の場合はここに手付かずの領域が山のようにあって、出口戦略こそこれから地方自治体がやっていくべきだ。

生活者の視点からのエネルギー政策だが、常々私は日本のエネルギー政策は「エネルギー供給事業者政策」ではないかと感じる。電気・ガス・石油の業法を束ねたものが基本的にエネルギー政策となっている。長期需給見通しは、単なるモデルの話であって基本的なエネルギー政策の「構え」になっていない。電気・ガス・石油の供給側だけに着目された事業者政策の結果、需要側の生活者の視点が失われている。ドイツ・北欧型のエネルギー政策では需要側で見た電力・熱・交通・産業において、どのように賄うかあるいは抑制するか、用途ごと一つ一つにエネルギー政策の「構え」がある。これを比較すると日本はとくに熱に対するエネルギー政策に欠けている。その結果として暖房器具は(電気+ガス+石油)×(ストーブ+ファンヒーター)という 3 × 2 と種々雑多に溢れ返っている状況がある。これを、お湯を使った低温の輻射暖房にしていけば空気も非常にクリーンであるし、日本で廃れつつある太陽熱温水器の低エクセルギーでクリーンな熱も使いやすい。一朝一夕にできることではないが、このように日本の温熱政策の仕組みを変えていくこともまた重要である。温熱政策と住宅政策を統合する。いわゆる無暖房住宅が最近実用化され広がっているので、日本でも広がる必要がある。

基本的に日本は制度的、仕組み的に作らねばならないところを、むしろ技術解に逃げている。関係者を交えた仕組み解を追い求めることが必要だ。これが社会全体のコストも引き下げ、エネルギー政策の水準も高くなる。また、それぞれの人がベストを目指す部分最適ではなく、お互いに win-win なところで合意する全体最適を目指す。そして、何か派手なプロジェクトを打ち上げるのではなく、この一点を突破すれば新しい仕組みに末広がりするといった「要」や「入り口」を目指す。関係者で知恵を絞れば必ず出口は出てくるものじゃないかと感じる。グリーン電力調達がまず一点突破の入り口となる。従来、地方自治体で自然エネルギーに取り組むといった時には、自前の太陽光パネルを置いたり補助金を出して太陽光を普及させたりという方法だった。これはやってしまうとまさにそこだけで終わってしまう。地方自治体の率先行動が一点突破の鍵となり、地域全体に広がる。あるいは他の地域に広がり、国の制度、他のエネルギー種に広がる。そういう応用可能な方向が必要だ。その意味でこの電力のグリーン購入は、熱や燃料のグリーン購入に広がっていく展開の可能性がある。既に取り組んでいる自治体も少なからずいるということから、他の自治体に容易に広がっていく新しい仕組みである。さらに環境配慮契約法といった形で、国の制度にもかなり影響を与えている。これがもう少し民の世界にも次のステップとして広がっていけば、単に率先行動から行政区域内全体に広がっていくことが出来る。

グリーン電力証書の仕組みは若干分かりづらいので、行政内でも地域でも広がりにくいところがあった。しかし、グリーン電力調達は色々な形でまず初期需要を作るということができるし、また応用して新しい仕組みを作ることも出来る。例えば一昨年から東京都では都内の施設で電力会社もしくは PPS から電気を購入するときに、一定割合グリーン電力と合わせて買うという仕組みができた。どこか一箇所で財政部門を通れば、そこから他の財政施設、区、市町村、行政が購入する調達事業者も同じ水準を求めていく。さらには地域のエネルギー事業者、あるいは民間事業者全般へと繋がっていく。それに合わせて自らは 5% を 10% にしていくといった形で、面的に広げていくことが可能になってくる。

こういったことを進めていくためには地方自治体それぞれに何か核のようなものが必要だ。カルフォルニアには州エネルギー委員会があり、ずっと顔の見える人たちが継続性のある政策を行っている。デンマーク発の環境エネルギー事務所は政策、環境ベンチャー、コンサルタント、アドバイザリーといったことをやっている。こういった仕組みはヨーロッパ全域に広がっている。我々は 長野県飯田市 で、おひさま進歩エネルギーという行政と地域の NPO と事業者による協働事業といったことを進めている。こういったものが基礎自治体が進めていくプロジェクトの雛形になるのではないか。

自然エネルギー市場、広く言うと環境政策市場において規制と政策、経済のベース、金融と技術、地域社会と市民社会という 4 つの大きな枠組みに囲まれた中で、とりわけ行政の役割は非常に大きい。どういう政策、規制を行うかによって市場の構えが決まってくる。新しい政策を作っていく時には市場全体をにらんだ形で作って欲しい。

高度成長期は新しい「モノ」を作ることに皆さんはわくわくした。これからは新しい社会なり仕組みなり政策を作ることに、多くの人が生きがいややりがい、面白さを感じるだろう。そういう場を地方自治体がそれぞれ作っていただきたい。地球温暖化対策において兆候の段階で早めに動くことが必要だ。地方自治体がまず第一歩、変化を起こす。今日この場がそういった最初の出発点の一つとなることを期待している。

最後に、宮沢賢治の注文の多い料理店から話をしたい。注文の多い料理店で二人の狩人は、扉に書かれた指示に対し、途中で自分の頭で状況を考えることなく、よくわからないまま都合の良い方に解釈して従ってゆく。そして最後には危機的な状況に陥ってしまう。地球温暖化でも、さまざまな意見が出されていて、ともすれば「まだ何もしなくてよい」など自分にとって楽で都合の良い方に流されてしまいがちである。このまま流されて危機的な状況になってしまうのか、自身と周囲の状況を考え必要な行動を率先して担っていくのかが大きな分かれ道である。狩人は犬が救ってくれたが、我々の将来世代を救えるのは我々だけしかいないのだから。


http://www.isep.or.jp/event/070323seminarsummary.html#2

http://www.isep.or.jp/event/070323seminar/presen/iida070323.pdf

 

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